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名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)978号 判決

控訴人

株式会社

佐藤旬平商店・外二名

代理人

唐沢高美

外一名

被控訴人

株式会社堀商店

代理人

長尾文次郎

外二名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人株式会社佐藤旬平商店および同佐藤公彦は、被控訴人に対し各自金九六二、六九〇円および内金四八一、三四五円に対する昭和四四年二月一日以降、内金四八一、三四五円に対する昭和四四年六月一日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人の右控訴人両名に対するその余の請求および控訴人佐藤延次郎に対する請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人株式会社佐藤旬平商店、同佐藤公彦と被控訴人との間に生じた分はこれを五分し、その一を右控訴人らの負担、その余を被控訴人の負担とし、控訴人佐藤延次郎と被控訴人との間に生じた分は全部被控訴人の負担とする。

この判決は主文第二項に限り、仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を全部棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を却下する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求め、本案につき控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人主張の請求原因は原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人の陳述)

第一、原判決は確定済であるとの被控訴人の主張について。

一、原審において、本件訴状副本の送達並びに第一回口頭弁論期日呼出状の送達は、控訴人ら宛てに郵便に付してなされたが、控訴人らが右書類を現実に受領していないことは本件記録上明らかである。従つて控訴人らは、被控訴人よりいかなる訴訟を提起されているか知る由もなかつた。

二、原審は、本件判決正本の送達について民訴法一七〇条を適用したためか、控訴人らが受訴裁判所である名古屋地方裁判所管内に住所を有しないので送達を受くべき場所等を届け出るべきところその届出がないので郵便に付して送達をなし、かつ同法一七三条を適用して書類発送の時をもつて送達があつたものとみなした。

しかしながら、控訴人らは本件訴訟提起の事実も全く知らなかつたのであるから、同法一七〇条一項の送達受取人届出義務が生じていないのであるから、同条二項を適用する余地はない。また例外規定である同法一七二条の郵便に付する送達をすることはできない。

右のごとく解釈しなければ遠隔地にて郵便等の遅配などが行われた場合被告として何ら防禦する機会なく判決がなされ、かつ確定してしまう恐れがあり、交付送達の原則により攻撃防禦の機会を与えようとする民訴法の基本理念に反し、かつ憲法三二条の規定にも違反することになる。従つて原審の判決正本送達手続は違法であり、原判決は未だ確定していない。

しかして、控訴人らは昭和四三年一二月一一日に突然本件判決正本の送達を受けたので、控訴期間内に本件控訴を提起したものであるから、本件控訴は適法である。

第二、本案に対する答弁および控訴人らの主張《以下省略》

(被控訴代理人の陳述)

一、原判決は、昭和四三年一二月一七日確定済であり、本件控訴は右確定後に提起された不適法なものであるから、却下を免れないことは明らかである。《以下省略》

理由

一、職権をもつて調査するに、本件記録によると、原審における訴状副本並びに第一回口頭弁論期日呼出状は、被控訴代理人より昭和四三年九月三〇日原審裁判所に対し、執行官により夜間送達をされたい旨の上申書の提出があつたので、原裁判所書記官は東京地方裁判所へ執行官による書類(訴状副本、第一回口頭弁論期日呼出状等)送達方を嘱託したところ、右執行官は同年一〇月一四日職務時間内に送達場所である控訴人らの肩書住所地に赴いたが、全戸施錠により不在のため送達未了となり、右書類を返還されたこと。そこで原裁判所書記官は、同年一〇月二四日特別送達により右訴訟書類を送達したところ、右書類は同年一〇月二八日に配達されたが不在のため交付できなかつたので日本橋郵便局に留置かれたうえ、同年一一月八日郵便法五二条、郵便規則九〇条の規定により留置の「期間経過のため返送」の符箋を付して還付されたこと。そこで原裁判所書記官は更に同年一一月一一日訴状副本、第二回口頭弁論期日(同年一一月一四日午前一〇時)呼出状等の書類を書留郵便に付して送達したが、右書類も前同様同年一一月二〇日「期間経過のため返送」されたこと。原裁判所は右第二回口頭弁論期日において訴訟人ら不出頭のまま被控訴代理人に訴状を陳述させて弁論を終結し、判決言渡期日を同年一一月三〇日午前一〇時と指定し、同日判決を言渡したこと。ところが、原裁判所書記官は右判決正本を同年一二月二日書留郵便に付して発送したうえ、その後同年一二月一七日被控訴代理人の申請に基づき右判決が確定したことを証明し、同年一二月二〇日右判決に執行文を付与したこと。以上の事実が認められる。

そうすると、原審における本件訴状副本、期日呼出状の送達は、執行官による夜間送達の手続を執らなかつた点において妥当を欠くが、結局全戸不在のため通常の交付送達はもとより補充送達、差置送達もできなかつたので、民訴法一七二条に従い書留郵便に付して送達したものであつて何ら違法ではない。しかし、同法一九三条による判決の送達については、控訴期間(不変期間)開始の前提となる送達であるから、受送達者の利益を害しないよう厳格に取り扱われるべきものと解すべきものである。すなわち、判決正本の送達はそれ自体民訴法に定める送達の規定にすべて準拠して行なわるべきものである。ところが、本件判決正本の送達については前認定のとおり、原裁判所書記官は、交付送達、補充送達、差置送達を行なわないで、当初から書留郵便に付する送達をした。右送達には例外規定である民訴法一七二条を適用すべき前提要件を欠くし、又送達場所の届出懈怠者に対する同法一七〇条二項の規定に準拠すべき場合にも該当しないことは明白である。従つて、原判決正本の送達は、書留郵便に付することの許されない場合にこれをしたものであり、右手続には明らかに瑕疵があり、その発送の時より控訴期間の進行を始める効力はないものといわざるを得ない。

ところで成立に争いのない乙第一号証、当審における控訴本人佐藤公彦の供述(第一回)、当裁判所の日本橋郵便局長に対する調査嘱託の結果および一件記録に徴すると、原判決正本在中の書留郵便は、昭和四三年一二月四日、控訴人方に配達されたが不在のため、日本橋郵便局配達員は一旦これを持ち帰り、一週間後である同年一二月一一日再配達をしたところ、たまたま在宅中の控訴人佐藤公彦がこれを受け取り、始めて控訴人らは本件訴訟事件を知り、直ちに訴訟代理人に訴訟委任し、同年一二月二一日当裁判所に控訴を提起したものであることが認められる。当審証人福島武の証言(第一回)は未だもつて右認定事実を覆えすに足りない。

してみると、原判決正本の送達手続には前記のとおり瑕疵があるけれども、控訴人らは同年一二月一一日自ら判決正本の送達を受け、進んで本件控訴を提起したものであるから、書留郵便に付してなされた原判決正本の送達は控訴人らの受領により結局目的を到達し、右瑕疵は治癒されたものというべきであり、その時に送達の効力が生じたものと解する。すなわちこの場合、受送達者に不利益な民訴法一七三条の例外規定の適用はなく、到達主義の原則に従い、控訴人らが原判決正本を受領し、現実にこれを了知したときに受送達者に対する送達が完了したものとし、右受領の日である昭和四三年一二月一一日をもつて同法三六六条にいう判決の送達があつた日と解するを相当とする。そうすると、控訴人らの控訴状は、その後二週間内である同年一二月二一日に当裁判所に提出されていることが記録上明らかであるから、本件控訴は控訴期間を遵守した適法なものというべきである。

従つて、被控訴人のこの点に関する本案前の抗弁は採用できない。《以下省略《(伊藤淳吉 井口源一郎 土田勇)

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